※この記事は「記事4 解答1」
※今回は「です・ます調」。
問題集1とは、次の記事(の問題部分)のことです:
解答だけでなく、「どうしてこのような練習をするか?」や、関連する事項の説明もします。誤解されがちなメタ論理やメタ論理記号、反例と正例の話題にも触れます。
内容:
- 書き方の注意
- 自然言語へ翻訳しても数学的な意味はない
- 限量子を含まない閉論理式
- 限量子を含む閉論理式
- 反例と正例
- 限量子の数学的(素朴集合論的)解釈
- 補集合の性質、ついでに「メタ」について
- 限量子を含む閉論理式の解説
- コンテキスト付き論理式
- コンテキスト付き論理式(続き)
- コンテキストの水増し
- 様々な論理式を作ってみる
- 限量子も使ってみる
書き方の注意
形式化された論理と通常の論理(メタ論理)を区別するため、次の書き方の約束をします。
- メタ論理(形式されてない通常の論理)の論理記号は丸括弧で囲む。(∧), (⇒) など。
- 形式化された命題である論理式は引用符で囲む。"∀x∈R.∃y∈R.(y2 = x)" のように。
形式化されている/されてないを特に強調したいときは上記の書き方を使います。しかし、いつでもちゃんと区別して書き分けるわけではありません。完全に区別し続けるのはシンドイ -- 文脈による判断もよろしく。
自然言語へ翻訳しても数学的な意味はない
論理記号は次の表と共に導入されます。
記号 | 意味 |
---|---|
∧ | かつ |
∨ | または |
¬ | ではない |
⇒ | ならば |
この表の右欄の「意味」は、自然言語(日本語)としての意味です。記号 ←→ 日本語 の翻訳が出来ても、数学的な意味は何も確定しません。
記号'∧'の数学的意味を定義するひとつの方法は、∧を {0, 1}×{0, 1}→{0, 1} という写像〈関数 | 演算〉だと解釈して、写像∧の定義を下のように与えることです。ここで、0は偽、1は真を表すとします。
∧ | 0 | 1 |
0 | 0 | 0 |
1 | 0 | 1 |
他の論理記号も同様にして、写像として数学的意味を確定できます。
しかし、変数xがある場合、
- 0 ≦ x ∧ x ≦ 1
における'∧'の意味は明らかではありません。次のような解釈があります。
- xの値が決まれば、0 ≦ x ∧ x ≦ 1 の意味は0(偽)または1(真)として決まる。
しかし、xの値の範囲が不明で、やっぱりよく分かりません。そこでコンテキストを明示して、
- x∈R| 0 ≦ x ∧ x ≦ 1
これなら、
- xの値が1/2と決まれば、0 ≦ 1/2 ∧ 1/2 ≦ 1 の意味は1として決まる。
- xの値が3と決まれば、0 ≦ 3 ∧ 3 ≦ 1 の意味は0として決まる。
- xの値が0と決まれば、0 ≦ 0 ∧ 0 ≦ 1 の意味は1として決まる。
- xの値が-1と決まれば、0 ≦ -1 ∧ -1 ≦ 1 の意味は0として決まる。
- …
結果として、上記のコンテキスト付き論理式は、R→{0, 1} という写像〈関数〉を定義します。より一般には、集合Xから{0, 1}への写像 X→{0, 1} が決まります。
X→{0, 1} という写像達に対して、∧、∨、¬、⇒ という演算を定義しても、もちろんいいのですが、我々にとってより馴染みがあるのは集合演算なので、∧、∨、¬、⇒ (の数学的意味)を集合演算として定義します。写像でも集合でもどっちでもよい理由は:
- X→{0, 1} という写像 と Xの部分集合のあいだには1:1の対応がある。
- (すぐ上と同じことだが)写像の集合 Map(X, {0, 1}) と Xのベキ集合 Pow(X) は集合として同型であり、標準的な同型写像がある。
- 標準的な同型写像は、f |→ {x∈X| f(x) = 1} という対応と、S |→ λx∈X.(if(x∈S) then 1 else 0 end) という対応(互いに逆)で与えられる。
※ λx∈X.(…) は、「… という式で定義される関数」の意味です。
そんな事情で、(x∈R| 0 ≦ x ∧ x ≦ 1) というコンテキスト付き論理式は、Rのベキ集合 Pow(R) の要素(=Rの部分集合)により意味付けられ、論理記号 ∧、∨、¬、⇒ も、Pow(R)において定義された集合演算(∪, ∩ など)として解釈されます。コンテキスト(の領域)が別な集合Xなら、Pow(X)の集合演算を使います。
以上の内容をまとめると:
- 〚x∈X| A〛 = {x∈X| A}
- 〚x∈X| A∧B〛 = 〚x∈X| A〛∩〚x∈X| B〛
- 〚x∈X| A∨B〛 = 〚x∈X| A〛∪〚x∈X| B〛
- 〚x∈X| ¬A〛 = 〚x∈X| A〛c (右肩のcは補集合をとることを表す)
- 〚x∈X| A⇒B〛 = 〚x∈X| A〛c ∪〚x∈X| B〛
これでやっと、論理記号 ∧、∨、¬、⇒ を数学的に議論できる準備ができました。
「記号'∧'は『かつ』の意味です」という説明は、もちろん必要だし、最初はこう言って導入すべきです。が、記号'∧'の数学的意味については何ひとつ規定してないので、論理の数学的モデルの構築には、これっぽっちも役に立ちません -- 形式的には何も言ってなかったのです。
限量子を含まない閉論理式
0を空集合として、1 = {0}, Pow(1) = {0, 1} とします。0は偽を意味し、Fとも書きます。1は真を意味し、Tとも書きます。混乱の恐れがないなら、0を0, 1を1とも書きます。ほとんどの場合、0と0とF、1と1とTを区別しません -- こういうイイカゲンさ、ちゃらんぽらんさは、論理では当たり前のことなので、神経質になるのはやめましょう。
スコット・ブラケット(の値)を求めるときに使う公式(定義)を、コンテキストを省略して繰り返すと:
- 〚A∧B〛 = 〚A〛∩〚B〛
- 〚A∨B〛 = 〚A〛∪〚B〛
- 〚¬A〛 = 〚A〛c (右肩のcは補集合をとることを表す)
- 〚A⇒B〛 = 〚A〛c ∪〚B〛
記号 '⇒' を集合演算の意味でもオーバーロードして使うことにします。
- (なんかの親集合の)部分集合 V, W に対して、 V⇒W := Vc ∪ W
この書き方を使うと:
- 〚A⇒B〛 =〚A〛⇒〚B〛
左側の'⇒'は論理結合子、右側の'⇒'は集合演算です。こういうオーバーロード(記号の流用、多義的使用)は良くない(実害がある)習慣ですが、記号が足りないので現実には多用されます。ちゃらんぽらんで、悪いこともやってしまう、のが論理のやり口です。
では【練習問題 A の解答】。一部(7番以降)は計算過程も示します。以下の論理式の場合、(記述が省略されているが)変数の変域を示すコンテキストは空。コンテキスト領域は1。したがって、スコット・ブラケットの値は0または1。念の為ここでは、0, 1 ではなくて 0, 1 を使います。
- 〚1 + 2 = 3〛 = 1
- 〚1 + 2 < 3〛 = 0
- 〚12 = 22〛 = 0
- 〚3 ≦ 5 ∧ 3 ≦ 3〛 = 1
- 〚1 + 2 < 3 ⇒ 12 = 22〛 = 1
- 〚1 + 2 < 3 ∨ 12 = 22 ∨ 3 ≦ 3〛 = 1
- 〚(3 ≦ 5 ∧ 3 ≦ 3) ⇒ 1 + 2 < 3〛 = 0
- 〚(3 ≦ 5 ∨ 3 ≦ 3) ⇒ ¬(1 + 2 < 3)〛 = 1
- 〚¬(1 + 2 < 3) ⇒ (1 + 2 = 2)〛 = 0
- 〚1 + 2 = 3 ⇒ (1 + 2 < 3 ⇒ 12 = 22)〛 = 1
計算過程:
7. 〚(3 ≦ 5 ∧ 3 ≦ 3) ⇒ 1 + 2 < 3〛 = 〚3 ≦ 5 ∧ 3 ≦ 3〛⇒〚1 + 2 < 3〛 = (〚3 ≦ 5〛∩〚3 ≦ 3〛)⇒〚1 + 2 < 3〛 = (1∩1)⇒0 = 1⇒0 = 1c∪0 = 0∪0 = 0 8. 〚(3 ≦ 5 ∨ 3 ≦ 3) ⇒ ¬(1 + 2 < 3)〛 = 〚3 ≦ 5 ∨ 3 ≦ 3〛⇒〚¬(1 + 2 < 3)〛 = (〚3 ≦ 5〛∪〚3 ≦ 3〛)⇒〚1 + 2 < 3〛c = (1∪1)⇒0c = 1⇒1 = 1c∪1 = 0∪1 = 1 9. 〚¬(1 + 2 < 3) ⇒ (1 + 2 = 2)〛 = 〚1 + 2 < 3〛c⇒〚1 + 2 = 2〛 = 0c⇒0 = 1⇒0 = 1c∪0 = 0∪0 = 0 10. 〚1 + 2 = 3 ⇒ (1 + 2 < 3 ⇒ 12 = 22)〛 = 〚1 + 2 = 3 ⇒ (1 + 2 < 3 ⇒ 12 = 22)〛 = 〚1 + 2 = 3〛⇒〚1 + 2 < 3 ⇒ 12 = 22〛 = 〚1 + 2 = 3〛⇒(〚1 + 2 < 3〛⇒〚12 = 22〛) = 1⇒(0⇒0) = 1⇒1 = 1
空なコンテキストの領域が1であることは、あまり深く考え込まないで、便宜的な約束だと思って受け入れましょう。この約束を受け入れれば、二値真偽値 {T, F} と、命題の真理集合(命題の外延、解集合、集合の内包的記法、デカルト解析幾何の意味での図形などと同じ)を、スコット・ブラケットにより統一的に扱うことができます。「便宜的」と言いましたが、この約束は実際は極めて整合的です。
限量子を含む閉論理式
【練習問題 B の解答】を先に:
- 〚∀n∈N.(n ≧ 0)〛 = 1
- 〚∃n∈N.(n < 0)〛 = 0
- 〚∀n∈N.∃m∈N.(m ≧ n)〛 = 1
- 〚∀n∈N.∃m∈N.(m < n)〛 = 0
- 〚∀x∈R.∃y∈R.(y2 = x)〛 = 0
- 〚∀x∈R.∃y∈R.(x ≧ 0 ⇒ y2 = x)〛 = 1
- 〚∃y∈R.∀x∈R.(x ≧ 0 ⇒ y2 = x)〛 = 0
- 〚∀x∈R.∀y∈R.∃n∈N.((x ≧ 0 ∧ y > 0) ⇒ yn ≧ x)〛 = 1
これらの真偽値を理解するひとつの方法は、「命題と、そのコンテキスト/真理集合 (G2 A1P1)」に書いた「感情表現をタップリ混じえた日本語」に沿って考える方法です。
自然言語に基づく直感的理解も重要で、決して悪いものではありません。ですが、スコット・ブラケットは素朴集合論に基づいて定義されている関数なので、素朴集合論の観点からも理解しておいたほうがいいでしょう(次節以降)。
反例と正例
反例という言葉はよく知られています。反例と対になる言葉はなんでしょう? それは「例」です。しかし、「例」では、一般的な事例と区別が付かないので、テクニカルタームとして「正例」と呼ぶことにします。
コンテキスト付き論理式 (x∈X| A) があったとき、
- 集合Xの特定の要素aが正例だとは、論理式Aの変数xにaを代入した後のスコット・ブラケット(の値) 〚A'〛 が1になること。A'は、Aの変数xにaを代入した後の閉論理式。
- 集合Xの特定の要素aが反例だとは、論理式Aの変数xにaを代入した後のスコット・ブラケット(の値) 〚A'〛 が0になること。A'は、Aの変数xにaを代入した後の閉論理式。
正例集合は真理集合と同じであり、反例集合は真理集合の補集合です。また言葉が増えてしまいましたが、同じ意味です。
我々は、変数を持つ命題(=コンテキスト付き命題)を、その正例や反例を通して理解します。つまり、命題の真理集合や、真理集合の補集合を使って考えるのです。“真理集合=スコット・ブラケット”による“意味のモデリング”が、人間の思考とかけ離れているわけでもないでしょ。
限量子の数学的(素朴集合論的)解釈
限量された〈限量子付きの | quantified〉論理式とコンテキスト付き論理式は、相互に関連していて、切り離して議論は出来ません。
限量された論理式 ∀x∈X.P、∃x∈X.P のスコット・ブラケット(の値)を求めるには、限量子を外してコンテキストに換えた (x∈X| P) のスコット・ブラケットを先に求める必要があります。
- 〚∀x∈X.P〛 = 1 (⇔) 〚x∈X| P〛 = X
- 〚∀x∈X.P〛 = 0 (⇔) 〚x∈X| P〛 ≠ X
- 〚∃x∈X.P〛 = 1 (⇔) 〚x∈X| P〛 ≠ 0
- 〚∃x∈X.P〛 = 0 (⇔) 〚x∈X| P〛 = 0
ここで、記号 '(⇔)' は、メタな(つまり、普通の、形式化されてない)論理的同値の記号です。テクニカルタームとしての「正しい」と、テクニカルタームとしての「正例」を使って述べれば:
- ∀x∈X.P が正しい (⇔) (x∈X| P) が正しい
- ∀x∈X.P が正しくない (⇔) (x∈X| P) が正しくない
- ∃x∈X.P が正しい (⇔) (x∈X| P) が正例を持つ
- ∃x∈X.P が正しくない (⇔) (x∈X| P)が正例を持たない
テクニカルタームとしての「反例」「正例」を使えば:
- ∀x∈X.P が正しい (⇔) (x∈X| P) が反例を持たない
- ∀x∈X.P が正しくない (⇔) (x∈X| P) が反例を持つ
- ∃x∈X.P が正しい (⇔) (x∈X| P) が正例を持つ
- ∃x∈X.P が正しくない (⇔) (x∈X| P)が正例を持たない
限量された〈限量子付き〉の命題は、限量子を取り外したコンテキスト付き命題の、正しさの程度(=スコット・ブラケットの値)を要約した表現と捉えられます。
補集合の性質、ついでに「メタ」について
正例の集合と反例の集合は、互いに補集合になっています。補集合は次の性質を持ちます。V, W をXの部分集合として:
- V∪Vc = X
- (Vc)c = V
- (V∩W)c = Vc∪Vc
- (V∪W)c = Vc∩Vc
これら補集合の性質は、排中律、二重否定、ド・モルガンの法則という論理法則の集合バージョンです。我々は、これらの論理法則とその集合バージョンを疑ったりしないし、平気で使います。他の数学の分野でも平気で使っているのだから、当然の話です。
そのことと、形式化された演繹システム内で、排中律、二重否定、ド・モルガンの法則などが成立するかどうかはまったくの別問題です。演繹システムは、我々が新しく作り出す(ソフトウェアプログラムと同様な)人工的構築物なので、下手に作れば期待される性質を持ちません。バグだらけのシステムだってありえます。
次の二文は、まったく別なことを述べています。メタ論理(我々が通常使っている形式化されてない論理)記号は丸括弧で包む規則で書きます。
- メタ論理(我々が通常使っている形式化されてない論理)において、ド・モルガンの法則 (¬)(A(∧)B) (⇔) (¬)A(∨)(¬)B が成立しているし、既に平気で使っている。
- 我々が構築した演繹システムSは、形式化されたド・モルガンの法則 "¬(A∧B) ⇔ ¬A∨¬B" を(なんらかのメカニズムにより)正しいと判断できる。
二番目の主張は、メタ命題(演繹システムSに関する普通の命題)であり、メタ論理(普通の論理)を使ってメタ証明(普通に証明)すべき事項です。
限量子を含む閉論理式の解説
【練習問題 B】の最初の2問について詳しく見てみます。
1. ∀n∈N.(n ≧ 0)
今まで述べたことから、次のような(メタな)同値性があります。
- ∀n∈N.(n ≧ 0) が正しい (⇔) (n∈N| n ≧ 0) が反例を持たない
- ∀n∈N.(n ≧ 0) が正しい (⇔) (n∈N| n ≧ 0) の反例集合が空
- ∀n∈N.(n ≧ 0) が正しい (⇔) (n∈N| n ≧ 0) の正例集合がN
- 〚∀n∈N.(n ≧ 0)〛 = 1 (⇔) 〚n∈N| n ≧ 0〛 = N
あるいは、
- ∀n∈N.(n ≧ 0) が正しくない (⇔) (n∈N| n ≧ 0) が反例を持つ
- ∀n∈N.(n ≧ 0) が正しくない (⇔) (n∈N| n ≧ 0) の反例集合が空ではない
- ∀n∈N.(n ≧ 0) が正しくない (⇔) (n∈N| n ≧ 0) の正例集合がNではない
- 〚∀n∈N.(n ≧ 0)〛 = 0 (⇔) 〚n∈N| n ≧ 0〛 ≠ N
これら同値な判定基準のどれを使ってもいいですが、例えば、「n ≧ 0 がN内で反例を持たない」ことから、〚∀n∈N.(n ≧ 0)〛 = 1 です。
2. ∃n∈N.(n < 0)
- ∃n∈N.(n < 0) が正しい (⇔) (n∈N| n < 0) が正例を持つ
- ∃n∈N.(n < 0) が正しい (⇔) (n∈N| n < 0) の正例集合が空ではない
- ∃n∈N.(n < 0) が正しい (⇔) (n∈N| n < 0) の反例集合がNではない
- 〚∃n∈N.(n < 0)〛 = 1 (⇔) 〚n∈N| n < 0〛 ≠ 0
あるいは、
- ∃n∈N.(n < 0) が正しくない (⇔) (n∈N| n < 0) が正例を持たない
- ∃n∈N.(n < 0) が正しくない (⇔) (n∈N| n < 0) の正例集合が空
- ∃n∈N.(n < 0) が正しくない (⇔) (n∈N| n < 0) の反例集合がN
- 〚∃n∈N.(n < 0)〛 = 0 (⇔) 〚n∈N| n < 0〛 = 0
前問と同じく、どれで判断しても 〚∃n∈N.(n < 0)〛 = 0 。
3 以降
【練習問題 B】の3問目以降は、限量子が2つ付いています。「命題と、そのコンテキスト/真理集合 (G2 A1P1)」に書いた「感情表現をタップリ混じえた日本語」に沿って考えれば、おそらく解答は得られるでしょう。
しかし、2個以上の限量子が付いた形式化された論理式の数学的解釈は、日本語としての解釈とは別に定義する必要があります。なぜなら、形式化された論理式は人工的に定めた構文的なデータに過ぎず、我々人間が意味を定義してあげないと、天然の意味などないからです。
「意味を定義してあげる」作業は、国語辞典の項目を書き下す作業ではありません。【練習問題 B】の最初の2問(1個の限量子)に対してやったのと同程度の精度の議論が必要です。が、この説明は長くなるので、以下の記事を読んでみてください(短い解説なら、この記事の最後にあります)。
コンテキスト付き論理式
【練習問題 C】を再掲。
- (x∈R| x < 0 ∨ 1 < x)
- (x∈R| 0 < x ∧ x < 1)
- (x∈R| 0 < x ∧ 1 < x)
- (x∈R| x < 0 ⇒ x2 = 1)
- (x∈R| x2 = 1 ⇒ x < 0)
- (x∈R| x2 = 1 ⇒ x = 0)
- (x∈R| x2 = 1 ⇒ x = 1)
- (x∈R| x2 = 1 ⇒ (x = 1 ∨ x = -1))
- (x∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ x = 1)
- (x∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ (x = 1 ∨ x = -1))
- (x, y∈R| x2 + y2 = 1)
- (x, y∈R| x2 + y2 = 4 ∧ x + y ≧0)
- (x, y∈R| x2 + y2 = 4 ∧ x + y ≧ -1)
- (x, y∈R| x2 + y2 = 1 ∨ x + y = 0)
- (x, y∈R| x2 + y2 = 1 ⇒ x = 1)
- (x, y∈R| x = 1 ⇒ x2 + y2 = 1)
- (x, y∈R| (x = 1 ∧ y = 0) ⇒ x2 + y2 = 1)
- (x, y∈R| x2 + y2 = 1 ⇒ x + y ≦ 2)
- (x, y∈R| x2 + y2 = 1 ⇒ x + y ≦ 1)
- (x, y∈R| x2 + y2 ≦ 1 ⇒ x + y ≦ 2)
- (x, y∈R| x2 + y2 ≦ 1 ⇒ x + y ≦ 1)
- (x, y∈R| (x2 + y2 ≦ 1 ∧ x + y ≦ 0) ⇒ x + y ≦ 1)
【練習問題 C の解答】1から10
1から10のスコット・ブラケットを図示すると次のようです。コンテキスト領域は、R = 直線 で、赤い所がスコット・ブラケットの値(真理集合)です。赤くない所は真理集合の補集合、つまり反例集合です。
実数の区間を、閉区間 [a, b] 、開区間 (a, b) のように書くと:
- 〚x∈R| x < 0 ∨ 1 < x〛 = (-∞, 0)∪(1, +∞)
- 〚x∈R| 0 < x ∧ x < 1〛 = (0, 1)
- 〚x∈R| 0 < x ∧ 1 < x〛 = (1, +∞)
- 〚x∈R| x < 0 ⇒ x2 = 1〛 = {-1}∪[0, +∞)
- 〚x∈R| x2 = 1 ⇒ x < 0〛 = (-∞, 1)∪(1, +∞)
- 〚x∈R| x2 = 1 ⇒ x = 0〛 = (-∞, -1)∪(-1, 1)∪(1, +∞)
- 〚x∈R| x2 = 1 ⇒ x = 1〛 = (-∞, -1)∪(-1, +∞)
- 〚x∈R| x2 = 1 ⇒ (x = 1 ∨ x = -1)〛 = (-∞, +∞)
- 〚x∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ x = 1〛 = (-∞, +∞)
- 〚x∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ (x = 1 ∨ x = -1)〛 = (-∞, +∞)
含意'⇒'を含む (x∈X| A⇒B) の形のコンテキスト付き論理式のスコット・ブラケットを求めるときは、いちいち悩まないで定義どおりに計算します。
- 〚x∈X| A⇒B〛 = 〚x∈X| A〛c∪〚x∈X| B〛
例えば、"(n∈N| nは偶数 ⇒ n2は偶数)" のスコット・ブラケットならば:
〚n∈N| nは偶数 ⇒ n2は偶数〛 = 〚n∈N| nは偶数〛c∪〚n∈N| n2は偶数〛 = {n∈N| nは奇数}∪{n∈N| n2は偶数}
ここで、{n∈N| nは奇数}が真理集合に入ってますが、これを真理集合に入れないと、奇数の集合は真理集合の補集合、つまり反例の集合になってしまいます。奇数が反例なのではなくて、
- 偶数であって、その二乗は偶数ではない自然数
が反例です。
反例ではない自然数は正例、つまり真理集合=スコット・ブラケットに入ります。コンテキスト領域(今の場合はN)の要素は、必ず正例か反例のどちらかです。「正例でも反例でもない」とか「正例でもあり反例でもある」なんて要素は在りません! 「Yesとも言えるしNoとも言える」なんて答え方は、まったく許されないのです。
※注意: 「nは偶数」は日本語ですが、"∃k∈N.(n = 2k)" とすれば形式化された命題になります。全部を形式化した形にすると長くなるので、一部を非形式的に日本語で書く略記はしばしば使います。定式化や理論構成自体は厳密でも、説明や表現はとても雑でエエカゲンなんです。
コンテキスト付き論理式(続き)
【練習問題 C の解答】問題11から15の図は次のようになります。13は間違っていたので、後から描きなおしています。コンテキスト領域は、R×R = R2 = 平面 で、赤い所がスコット・ブラケットの値(真理集合)です。赤くない所は真理集合の補集合、つまり反例集合です。
15は汚いですが、円周が白ヌキ(補集合、反例)です。が、点 (1, 0)は赤(正例)です。
続いて、【練習問題 C の解答】16から22まで。
19は青で塗っちゃいましたが、白ヌキ(補集合、反例)のつもりです。
コンテキストの水増し
【練習問題 D】を再掲。
- (x, y∈R| x < 0 ∨ 1 < x)
- (x, y∈R| 0 < x ∧ x < 1)
- (x, y∈R| 0 < x ∧ 1 < x)
- (x, y∈R| x < 0 ⇒ x2 = 1)
- (x, y∈R| x2 = 1 ⇒ x < 0)
- (x, y∈R| x2 = 1 ⇒ x = 0)
- (x, y∈R| x2 = 1 ⇒ x = 1)
- (x, y∈R| x2 = 1 ⇒ (x = 1 ∨ x = -1))
- (x, y∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ x = 1)
- (x, y∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ (x = 1 ∨ x = -1))
【練習問題 D の解答(省略)】
個別の解答は省略しますが、もとのスコット・ブラケット(真理集合)は、直線内の区間(の寄せ集め)なので、それを上下方向に無限に伸ばした平面領域を描きます。例えば2番なら、幅1で縦方向に無限に長い帯です。
【練習問題 E】を再掲。
- (x, y∈R| 1 + 2 = 3)
- (x, y∈R| 1 + 2 < 3)
- (x, y∈R| 12 = 22)
- (x, y∈R| 3 ≦ 5 ∧ 3 ≦ 3)
- (x, y∈R| 1 + 2 < 3 ⇒ 12 = 22)
- (x, y∈R| 1 + 2 < 3 ∨ 12 = 22 ∨ 3 ≦ 3)
- (x, y∈R| (3 ≦ 5 ∧ 3 ≦ 3) ⇒ 1 + 2 < 3)
- (x, y∈R| (3 ≦ 5 ∨ 3 ≦ 3) ⇒ ¬(1 + 2 < 3))
- (x, y∈R| ¬(1 + 2 < 3) ⇒ (1 + 2 = 2))
- (x, y∈R| 1 + 2 = 3 ⇒ (1 + 2 < 3 ⇒ 12 = 22))
- (x, y∈R| ∀n∈N.(n ≧ 0))
- (x, y∈R| ∃n∈N.(n < 0))
- (x, y∈R| ∀n∈N.∃m∈N.(m ≧ n))
- (x, y∈R| ∀n∈N.∃m∈N.(m < n))
- (x, y∈R| ∀x∈R.∃y∈R.(y2 = x))
- (x, y∈R| ∀x∈R.∃y∈R.(x ≧ 0 ⇒ y2 = x))
- (x, y∈R| ∃y∈R.∀x∈R.(x ≧ 0 ⇒ y2 = x))
- (x, y∈R| ∀x∈R.∀y∈R.∃n∈N.((x ≧ 0 ∧ y > 0) ⇒ yn ≧ x))
【練習問題 E の解答(省略)】
個別の解答は省略しますが、もとの(水増しする前の)コンテキスト領域は1で、スコット・ブラケット(真理集合)が0か1だったので:
- もとのスコット・ブラケットが1ならば、平面全体
- もとのスコット・ブラケットが0ならば、空集合
様々な論理式を作ってみる
【練習問題 F の解答】について; まず、命題パラメータ A, B, C に代入する具体的な論理式を選びます。
- A として20番を選ぶ: (x, y∈R| 0 < x ∧ x < 1)
- B として31番を選ぶ: (x, y∈R| x2 + y2 = 4 ∧ x + y ≧ -1)
- C として29番を選ぶ: (x, y∈R| x2 + y2 = 1)
この設定で次の論理式のスコット・ブラケット(真理集合)を描きます。赤い所がスコット・ブラケットの値(真理集合)です。赤くない所は真理集合の補集合、つまり反例集合です。
- ¬A
- A∧B
- A∨B
- A⇒B
- A⇒¬B
- (A∧B)⇒C
- (A∨B)⇒C
- A⇒B∧C
- A⇒B∨C
- (A∧B)∨C
こんな(↓)感じ。描く順番がアッチャコッチャ。
限量子も使ってみる
【練習問題 G の解答】について; Aに何を選んでもあまり面白い絵にならないので絵は割愛。
総称論理式:
- ∀x.A
- ∀y.A
- ∀x.∀y.A
- ∃x.A
- ∃y.A
- ∃x.∃y.A
- ∀x.∃y.A
- ∀y.∃x.A
一般に、限量子が付いた場合のスコット・ブラケットの描き方を説明しておきます。
〚x∈R, y∈R| A〛は、コンテキスト領域R2内の部分集合(平面内の図形)なので、それをVと置きます。存在命題のスコット・ブラケット〚x∈R| ∃y∈R.A〛は、集合Vを射影した像です。上の図で射影像はWとなっています。
- W = (Vの射影像) = 〚x∈R| ∃y∈R.A〛
全称命題 ∀y∈R.A に関しては、
- ∀y∈R.A と ¬∃y∈R.¬A は論理的に同値
という結果を使って、
- (Vcの射影像)c = 〚x∈R| ∀y∈R.A〛
これらは、∃y∈R.A と ∀y∈R.A のスコット・ブラケットを計算するときの公式(定義)と思ってもかまいません。つまり、(x∈R, y∈R| A) のスコット・ブラケットが分かれば、それから、∃y∈R.A と ∀y∈R.A のスコット・ブラケットは素朴集合論内で定義・計算が出来るわけです。