抽象的な概念を具体的に扱う

例えば、一例としてトポロジーの話題。%
\newcommand{\u}[1]{ \underline{#1} }

正確な書き方と記号の乱用

M がモノイドだとすれば、M = (\u{M}, m_M) と書ける。ここで:

  1. \u{M} は集合。モノイドの台集合〈underlying set〉と呼ぶ。檜山は、underly と underline をかけて(駄洒落!)、台集合には下線を引く。
  2. m_M:\u{M}\times \u{M} \to \u{M} は写像。モノイドの乗法〈mulitiplicationt〉とか二項演算〈binary operation〉とか呼ぶ。

もちろんモノイドの法則〈公理〉である結合律、左単位律、右単位律は前提する。

台集合は、それだけでは単なる集合でありモノイドではない。が、M = (M, m_M) と書くことが非常に多い。このテの不正確な書き方は記号〈記法〉の乱用〈abuse of notation〉という → Wikipedia

記号の乱用にはいくつかのレベルがあり、次の例で下にいくほど酷くなる。

  1. M = (\u{M}, m_M) はモノイド (これは正確)
  2. M = (M, m_M) はモノイド
  3. M = (M, m) はモノイド
  4. M はモノイド (乱用つうより、省略表記)

以下でも記号の乱用を使うが、たまに正確な書き方もする。

命題

次のような命題を“具体的に”考えたい。

  1. 距離空間は位相空間である。
  2. 距離連続写像は位相連続写像である。
  3. 距離空間ではない位相空間が存在する。

次のような言葉が関連する。

  1. 距離空間
  2. 位相空間
  3. 連続写像

これらの言葉(単語)を「聞いたことある」ではなくて「理解している」にするには、上記の命題を正確に記述して証明する(自力でなくてもいいが)必要がある。

距離空間と距離連続写像

X = (\u{X}, d_X) が距離空間とは、距離関数 d_X:\u{X} \times \u{X} \to {\bf R} が距離の公理を満たすこと。

X = (X, d), Y = (Y, d) (記号の乱用)が2つの距離空間のとき、写像 f:X \to Y (ほんとは f:\u{X} \to \u{Y} )が連続写像であることの定義がある(調べればすぐ出てくる)。ただし、定義の流儀はいくつもあって、イプシロン・デルタ方式もあれば、開球を使う方式もあれば、近傍を使う方式もあるだろう。

いずれにしても、距離概念に基づく連続性を持つ写像なので、距離連続写像と呼ぶことにする。

位相空間と位相連続写像

X = (\u{X}, \mathscr{O}_X) が位相空間とは、部分集合の集合 \mathscr{O}_X \subseteq Pow(\u{X}) が位相の公理を満たすこと。

X = (X, \mathscr{O}), Y = (Y, \mathscr{O}) (記号の乱用)が2つの位相空間のとき、写像 f:X \to Y (ほんとは f:\u{X} \to \u{Y} )が連続写像であることの定義がある(調べればすぐ出てくる)。

位相構造(開集合族)に基づく連続性を持つ写像なので、位相連続写像と呼ぶことにする。

距離空間は位相空間

 X = (X, d) が距離空間のとき、対応する位相空間を(記号の乱用を目一杯使って) X = (X, \mathscr{O}) とする。距離空間から位相空間をどう作るかを具体的に記述する。

距離連続写像は位相連続写像

f:(X, d) \to (Y, d) が距離連続写像のとき、同じ写像(f:\u{X} \to \u{Y})が、位相連続写像 f:(X, \mathscr{O}) \to (Y, \mathscr{O}) となることを証明する。

距離空間ではない位相空間

距離空間に対して次が成立する。

  • 距離空間はハウスドルフ空間である。

よって、

  • ハウスドルフではない空間は距離空間にはなりえない。

ハウスドルフではない位相空間を探せば、それが距離空間ではない(どうやっても距離が入らない)位相空間の例になる。

このときも、反例となる空間の具体的な記述、それが位相空間であることの証明、それがハウスドルフではないことの具体的な証明が必要。なんとなくモヤッとした(つまり“具体的でない”)記述では意味がない。