テンソル積の誤解と難しさ

  1. ベクトル空間のテンソル積 A\otimesB の台集合は A×B(正確には U(A)×U(B))である。→ 違う。U(A\oplusB) = U(A)×U(B) は成立するが、U(A\otimesB) = U(A)×U(B) は成立しない。
  2. ベクトル空間 A, B に対して、テンソル積 A\otimesB は一意に決まる。→ 違う。up-to-isoで一意なだけで、ほんとに一意ではない。
  3. ベクトル空間のテンソル積は、定義をシッカリすれば得られる。→ 定義をしても存在が保証されない。定義が構成的〈constructive〉定義ではなく、記述的〈descriptive〉定義なので、別途存在証明が必要。記述的定義は、「カクカクシカジカなモノがもし存在するならば、それをナンタラと呼ぶ」の形。
  4. ベクトル空間のテンソル積 A\otimesB の構成に基底を使ってはいけない。→ そんなことはない。加群のテンソル積の場合、基底の存在が保証されないから使えないが、ベクトル空間なら基底を使ってよい。
  5. 無限次元ベクトル空間でもテンソル積は在る。→ 定義可能、構成可能ということならYES。だが、距離や位相で細工しないと使い物にならないので、代数的テンソル積は面白くはない。
  6. A\otimesB があればテンソル積の計算ができる。→ A\otimesB の線形計算だけでは不十分で、双線形写像 τ:A×B → A\otimesB がないとテンソル計算にならない。構造としてのテンソル積空間は (A\otimesB, τ) である。それは(チャンとした)定義からも明らか。