実数体上のベクトル空間の圏 で話をする。が、以下の話は、具体例を書き変えれば、半環 上の{半}?ベクトル空間の圏でも通用する。この記事だけの記法だが、クライスリ射をラテン文字、線形写像をギリシャ文字で書く(「焼畑農業式コミュニケーション」参照)。
線形結合の集合 にベクトル空間構造を入れたベクトル空間を一時的に短く と書く。ベクトル空間 の台集合を と書く。自由忘却随伴系〈free-forgetful adjunction〉(知らなきゃ知らないでいい)から次の規準的ホムセット同型が存在する。
上のホムセット同型の右から左への同型射を とする。
は、自由忘却随伴系から規準的・一意的に決まるので任意性はない。
以下、 を と略記する。 はギリシャ文字ではないが、全体として( を含めて)線形写像を表す。 だから、 に対して は一意的に決まる(クドイが強調しておく)。この「一意的に決まる」ことと、次の枠内の事実は別なことである。枠内に出てくる は規準的な埋め込み(モナド単位)。
- は線形写像である。
1番目は、線形写像の逆写像は線形写像、線形写像と線形写像の結合〈合成〉は線形写像だから明らか。2番目は逆写像の定義から明らか。3番目は2番目の両辺に をプレ結合しただけ -- 結合〈composition〉の結合律〈associative law〉は使っている。
具体例を与えよう。 として、 を次のように定義する。
とすると、 の(標準基底に関する)行列表示は:
と置くと、 は次の性質を持つ(上の枠内の事実参照)。
- は線形写像である。
別な を取っても同じことは成立する。例えば、
として:
として:
- は線形写像である。
もちろん、 以外の一般の集合 でも、
- は線形写像である。
図式で表現すると次のようになる。図式内では忘却関手 をちゃんと書いている(省略されることが多い)。